あの夏の子供たち

すごく疲れてるけど朝早いめ(注:カンサイでは「早め」「遅め」じゃなくて「早いめ」「遅いめ」と言います)に目が覚めたので、京都シネマへ「あの夏の子供たち」を観に行った。公開終了も近かったので、今日行っとかな!と思って。ほんとは「ドン・ジョヴァンニ」も観たかったんだけど行けてなくて、終わるまでに「あの夏の〜」とどっちかしか観れないからどちらを観ようか迷ったんだけど、カンで「あの夏の〜」を選んだのです。
「あの夏の子供たち」公式サイト→ http://www.anonatsu.jp/index.html
今日はすげー暑い! しかも湿度が高いから、チャリで走ったら汗だく。ふうー。
ついでに会員の更新手続きもして、特典の無料サービスで鑑賞。
映画は、タイトルロールの背景の音楽(なんていうの? アフリカとヨーロッパがミックスしたような、ものすごく生き生きしたダンサブルな曲)からすでに名作のニオイをぷんぷん発散してる感じで「これは『当たり』だな」と直感した。
映画のプロデューサーとしてバリバリ働く主人公。彼は妻と3人の娘たちを愛し、愛されて生きていた。しかし経営する映画会社の資金繰りが厳しくなり、しかもその状況は日を追って時間を追って、刻々と悪化していく。超過密スケジュールの中で、身体的にも精神的にも彼はどんどん追い込まれていく。家族は彼を心配しつつ、あなたは仕事に重心をかけすぎている、もっと私たちのほうを向いていてほしいと訴えてしまう。それが彼には愛する家族からも責められているかのように感じられる。ついに彼は心身の極限状態に至り、路上で自殺する。その後家族たちは、深い喪失感と言葉にできない悲しみを抱え、それに加えて父の残した膨大な借金と仕事の整理にも直面しつつ、互いに手をつなぎ、前を向いて自分たちの人生を力強く歩んでいく。そういうお話。
パリの街の光と闇、郊外のあざやかな緑、崩れかけた礼拝所。停電の部屋にゆらめくロウソクの炎。若手脚本家の部屋で朝を迎えた上の娘の、横顔に射す朝の柔らかい光。水面が白濁した池でぷかぷか浮かんで遊ぶ、あどけない幼い娘の肢体。夏の陽光がきらめく表通りからいきなりアパルトマンの1階の暗がりに入った瞬間の、めまいがするような闇。
あらゆるシーンが奇跡的に美しかった。
とりわけ、父と共に、そして父亡き後は母と娘たちが手をつないで歩く川辺の情景にものすごく心を動かされた。
海はあまりにも大きすぎて力強すぎて生命力にあふれすぎていて、私は美しさよりも怖さを感じてしまう。(映画ならウディ・アレンの「セプテンバー」、オゾンの「僕を葬る」に出てくる海が、圧倒的で怖かった。)
でも川はやさしい。海は人間を超えたものを感じさせるけど、川は人間に寄り添ってくれる。楽しい時には楽しい気持ちを、悲しい時にはその悲しさを、一緒に分け持ってくれる。大切な人を失った時に川辺を歩く姿というのは、なんて美しくて優しくて切ないんだろう。(橋口さんの「ハッシュ!」でお兄ちゃんが死んだ後の川辺のシーンも思い出した。あのシーン、大大大好き。)
以下、印象に残った台詞(うろ覚え)。
自殺した父は、私たち家族を捨てたんだし、自分の人生を捨てたのだ、と言って泣く娘に対して母が言った言葉。

  • 「それは違うわ。死は人生の放棄ではなく、人生に数ある出来事の1つ。パパならきっとそう言うはずよ。」

私が側にいれば夫は自殺せずに済んだかもしれない、と悔やむ妻に対して、夫の同僚が「でも彼は拳銃を購入してたわ」(つまり、妻が側にいたとしても彼はどのみち死ぬつもりだった、それは誰にも止めようがなかったのだ、だからあなたがそんなふうに自分を責める必要はない、というなぐさめ)と言う。それに対する妻の返事の言葉。

  • 「いいえ、彼は本当は死にたくはなかったはずよ。銃を用意していたのは、逃げ道があると思うことでなぐさめられるから。死ねると思うことでラクになれるから。死にたかったわけじゃない。」

観終わった後で、深い余韻が残った。人生を肯定しようと思える、そんな映画だった。
キャストについて。いちばん上の娘を演じていたアリス・ド・ランクザンは、「あなた『夏時間の庭』に出ていた印象的な孫娘でしょう!そうに違いない!」と思ってたらやっぱりビンゴだった。この人は躍動感と繊細さを絶妙なバランスでその細い体に宿している。すごい。
主人公の映画プロデューサーを演じたルイ=ドー・ド・ランクザンはカリスマ的な魅力を存分に発散していた。とても魅力的で、スクリーンを通して観客を惹きつけ、愛させずにはおかない。観客はあらすじをたいてい知ってるから、この人がそろそろ自殺しちゃうんだと分かってるけど、お願い死なないで! と心から祈りたくなるようなキャラクターを作っていた。そして、作中で亡くなってからも観客の心に生き続けるような、そんな演技だった。
ちなみにこの人とアリス・ド・ランクザンは実の親子だそうです。すげー親子!
あ、そしてさっき公式サイトを見たら、監督のミア・ハンセン=ラヴって1981年生まれなんだね! 若い! そしてめっちゃ綺麗!
写真→ http://www.anonatsu.jp/staff.html
本当に良い映画を観ると、心が、人生が確実に豊かになると思う。良い音楽や良い美術や、優れた小説やおいしい料理や、素敵な人との交流がそうであるように。