戦場でワルツを

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受け止めるのに相当なエネルギーを要する映画だろうと予想しつつ、ぜひとも映画館で観たい、観なければと思って行った。
冒頭、26匹の犬が猛進するシーンで、予想が的中したことを実感した。もう逃げられない、と思った。覚悟を決めた。
監督=主人公は、冒頭の「26匹の犬に追い詰められる」という悪夢を見る戦友の話を聞いて、自分がイスラエルの兵士としてレバノンで任務についていた時の記憶が失われてしまっていることに気づく。そこで当時の自分を知る人々に会いに出かけ(遠くはアムステルダムへも行く)、当時の話を聞くことにを通じて、少しずつ記憶を取り戻していく。そしていちばん最後まで思い出せなかった記憶というのは、パレスティナ人の難民キャンプにおける虐殺事件についてのものだった。
内容に触れるので詳しくは書かないが、この作品は観る者にポジショナリティの問題を鋭く重く突きつけてくる。監督=主人公は、記憶を取り戻した後の自分の思いについては、語らない。というか、監督は語らないということを選んだ。だからいちばん最後のショットで、観客は「で、あなたは?その位置から何を思うの?」と問われる。
加害者、被害者、罪を負うということ、責任、償い、記憶ということ、などを深く問いかける映画だった。重い。
不思議なことに(というか不思議ではないのかもしれないが)、アニメーションという形で表現したことで、戦争というものの不条理な暴虐性をリアルに描くことに成功していた。造形がリアルなのではない。むしろ人物の表現は線が太くて密度が小さくて平板で、動きもわざと妙に角ばったぎこちなさを出していて、日本の主流のアニメのようななめらかで繊細なリアルな表現とはかけ離れている。アニメというより幼稚園の頃にやったペープサート(紙人形劇。当時私たちは紙に絵を描いて割り箸にぺたっと貼り付けて演じていた)を思い起こさせる。だからこそ逆に、そこに「本当の戦争の話」を私は感じ取った。
マックス・リヒターやバッハ、ショパンのワルツなど、音楽や音響も秀逸。
観ようかどうしようか迷っている方は(たくさんいると思うけど)、ぜひDVDではなく映画館で観ることをおすすめします。