夜の河原

帰り道で夜の河原をチャリで通ってみたところ(水の側じたいは好きなので)、行ってはいけない暗黒世界へ引きずり込まれそうになった。
死者の手が何本も何本も水面から伸びてきて、あたしの足首をつかんで川底へ引っ張りこもうとするのだ。昔自分で死んだ人、最近自分で死んだ人、あたしが頭の中で何度も何度も殺した人。その人たちの顔が網膜にちらつく。流れる水音が、死者のささやきに聞こえる。「おいでよ、こっちへおいでよ」とあたしを誘う声。必死でペダルをこいでまっすぐ進んでいるつもりなのに、だんだん川のほうへハンドルが傾いてしまう。息苦しくて、いやな汗をかいていて、視野がきゅーっと狭くなる。
強迫観念だ、妄想だと分かっていつつ、恐怖であたまがおかしくなりそうになり、歩道へ戻った。アパートへ帰ってきたら心底ほっとして涙が出てきた。戻ってこれてよかった。