その夜のできごと

先日の和歌山旅行(http://d.hatena.ne.jp/tsukihoshi/20061002#1159793061)で起きたことを書こうと思う。しんどいけど、もやもやしたまま放っておくよりも文字にして残しておいたほうがいいと思うから。
先日も書いたように、和歌山では夜にロッジの外でみんなでバーベキューをした。旅先でお酒を飲みながら野外で、という雰囲気も手伝ってだろう、その場はこの前書いたみたくゴシップねたで盛り上がっていた。業界ねただけでなく、大学の教員や学生などの話題も出ていた。
そうした空気の中で、ある人からホモフォビックな話題が出て、それをねたに場が盛り上がるという場面があった。具体的には「Aさん(旅行には参加していないある院生さん)ってホモちゃうん?」「えーまじで?!」「何それ知らんかったー!ぎゃはー」みたいなシーンを想像してもらえると近いと思います。
それでその時私はどうしたかというと、あろうことか固まってしまったのでした。そのねたで主に騒いでいたのは社会人入学の院生さんたちだったので、20代後半以上で職業経験があり、しかも社会福祉の専門職である人たちがこんなことを言ってバカ騒ぎをしている、という事実に私は驚いてしまい、息を呑んで身体が固まってしまった。
で、次の瞬間にハッと我にかえった。「このまま放っておいたらダメだ、何か言おう、言わなくちゃ」と思ったし、腹の底からむらむらと怒りが湧き上がってきた。
でも結局私にできたことは、盛り上がってるその人たちに「そんなんどうでもいいじゃないですか!」と怒り口調で言い放ったことだけだった。ほんの一瞬その場はしーんとして気まずい空気が流れた。そして「Aさんホモ疑惑」話はそこで打ち切られ、3秒後には別の話題へ移った。
その後は何事もなかったかのように、別の人のゴシップやら何やらをしゃべりながら笑いながらバーベキューは続いていった。私は飲んで食ってへらへら笑いながら、さっき自分がとった言動があまりにもふがいないのが悔しくて情けなくてやるせなかった。今自分は泣きたいのか、それとも何かを殴ったり蹴飛ばしたりしたいのか分からなかった。たぶん両方ともしたかったんだろうと思う。自分の頭の悪さや反射神経の鈍さ、度胸のなさが本当に情けなかった。そんな自分に私は腹を立てていた。
なぜあの時私は冷静な問いを投げかけれなかったんだろう? 「なぜあなたにAさんの性指向が分かるんですか? ご本人に訊いたんですか?」「もしAさんがホモセクシュアルだとしてそれが何か? ホモセクシュアルであることはおかしいんですか? 笑うようなことなんですか?」「ていうか他人のこと言う前にあなたのセクシュアリティはどうなんですか? 『普通』?『正常』? 『普通』や『正常』って何ですか?」。なぜそう言えなかったのか。話を無理やり打ち切らせたって意味ないじゃん。何あいつヒステリック〜って思われて終わりじゃん。それじゃあの人たちには何も残らない。何も変わらない。
私が冷静に対応できなかったのは、酔ってたから、じゃない。私はその日は一晩で3缶くらいしか飲まなかったので、ずっとほぼしらふで過ごしていた。
私が話を打ち切ることしかできなかったのは、動揺して怖気づいていたからだ。よく知らない院生さんたち、しかも専門分野の先輩格でこれから長期にわたって間接的にせよ利害関係を持ち続けるだろう人たちに対して、私は議論をふっかけることをためらい、そしてやめた。酒の席だし、と自分に言い聞かせて。ここで真面目なことを言ってもムダ、リスクを負うだけ損だよ。だってあの人たちに嫌われたくないでしょう? 敵に回したくないでしょう? 大人なんだから大人のコミュニケーションでいこうよ。と、自分で自分を説得しながら、私はへらへら笑ってあじの干物をつついた。
その日も私は今年の初夏からずっとつけているレインボーバンドを左手首につけていたけど、その時、ああ私こんなのつける資格なんかないよなーと思った。別に資格がどうこうなんて関係ないのかもしれない、けど、レインボーバンドをつけていながらありきたりなホモフォビア一つにもろくに対応できないなんてダメじゃん、と思ったのだ。私がレインボーバンドをつけていることによって、レインボーバンドが持つメッセージとは異なるメッセージ、間違ったメッセージを示してしまっているような気がして怖い。そんな考え方は自虐的だしカタすぎるしおかしいのかもしれない。私もうっすらそう思う。でも、いったんレインボーバンドを外してしばらく過ごしてみようと思う。その中で感じることや気づくことを大事にしてみようと思う。