子どもをめぐる言説

NHKの「生活ホットモーニング」を見る。今朝起きたら大学のコから「うちの先生が出るよー!」とメールが入っていたので。テーマは「子どもとインターネット」。例の佐世保小6女子事件からのつながりで「いったい今の子どもたちは何を考えているのかしら? インターネットで何をやっているの?」みたいな内容。まあ予想通りNHK側の人たちはむちゃくちゃ表面的なコメントに終始していてなかなか苛つかせてくれた。しかも「子どもたちとインターネットとの関係に詳しい」とかいうライター氏がコメントの大半をとっていたため、話は「インターネットとの上手な付き合い方」的な方向へと進んでいく始末。関西のどこかの小学校で「ネット上の匿名の掲示板での『荒れ』を生徒が体験して、その後クラスでその時の気持ちを話し合う」という「先進的な」授業が紹介されていたけど、今日の番組を見た全国何十万のお母さんたちの中には「なぜうちの学校ではこういう授業をやらないんですかっ?!」と今後学校に詰め寄る人たちも少なからずいるんだろうなあ、と思った。全体的に見るべきところの少ない、ほとんど「はなまるマーケット」的な内容だったけど、番組の終わりに先生が放ったひと言が非常に良かった。
「今の子どもの問題のほとんどは、大人の問題です。」
一座沈黙。2秒後、NHKアナが薄笑いをしながら「そうですね〜、難しいですね〜」とド素人なコメント。いや、まったく先生の言う通りだよ。今回の佐世保事件の報道のされ方もそうだけど、子どもの問題を「理解不能な人たちが起こす『向こう側の』問題」としてしか見ようとしない(もしくは問題をごく一面的・表面的にしか見ないで「理解不能」と放棄し、瑣末な事象に群がる)ような大人側の姿勢こそが、いちばん深刻で根深い問題なんじゃないの? 子どもたちの問題を「私の問題として」考えること、子どもたちが抱える「殺してやりたい」ほどに「ウザい」というその気持ちを「私の中にも存在する(かもしれない)ものとして」みつめること、そういうことを今大人はしなくちゃいけないんじゃないの? インターネットがどうたらとか、そういう話じゃなくってさ。
ここまで書いてきて思ったんだけど、今回の佐世保事件をめぐる世論の構図って、何かに似てない? そう、地下鉄サリン事件を含む「オウム」についての語られ方にそっくりですよ。一部の狂ったエリートたちが起こしたカルト教団事件として扱われ、そこに人間存在の本質に関わる問題を見出した論者はほとんどいなかった。そのような世論のありように異を唱えたのが、まさに村上春樹でしたね。ううむ、私たちが生きるこの現実世界は確かに「深層心理学化」してきていますね。そして同時に「現実の村上春樹化」も着実に進行してますね。いま日本でそして世界中で(私も含めて)これほどまで多くの人から村上春樹の著作が熱狂的な支持を得ている理由の1つは、この「現実の深層心理学化」という現象との密接な関連性にある、と私は思う。そのへんのことは今日番組に出てた先生の新著を読了後にまたいつか書きます(たぶん)。
しっかしなあ、NHKは国民から金取ってるんだからもうちょっとまともな番組を作ってほしいものだ。子どもについても「輝けいのち」みたいな質の高い番組も作ってるんだし。今回の問題もきちんとNHKスペシャルか何かで採り上げるべきでしょう。今からでもいいのでやってください、国営放送として。